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第1部 第3章 第4節 真に豊かな暮らしの実現と若者

第1部 消費者意識・行動と消費者問題の動向

第3章 消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果等

第4節 真に豊かな暮らしの実現と若者

若者を取り巻く社会経済環境の変化、若者の消費行動や消費者トラブル、若者を対象とした支援策を見てきたことを踏まえ、本節では、真に豊かな暮らしの実現に向けて、若者という観点から、どのような課題と対応が必要とされているかについて考察します。

現代の若者の消費行動や消費者トラブルは、若者を取り巻く社会経済環境の変化を反映しています。中でも、日本経済の長期的な低成長と情報化の進展の二つが大きく影響していると考えられます。

●長期的な低成長により、金額ベースでは若者の消費は堅実で慎重

まず、現代の若者は、生活水準は高いが、経済成長は停滞している中で育ちました。長期にわたる低成長、デフレが続き、さらに、非正規雇用の増加やリストラ等、不安定な雇用形態が広がる中で暮らしてきたため、若者の多くは将来の生活が経済的に現在以上に豊かになるという見通しが立たずに、不安を感じていると考えられます。

若者においては、消費性向の低下、男性の自動車向け支出の減少、洋服への支出の減少等にみられるように、金額ベースでみると消費は堅実で慎重な傾向にあります。一方で、若者の多くは、年齢層の高い世代に比べて買物好きで、新しい物が好きで、衝動買いもします。これらのことから、若者の潜在的な消費意欲は決して低くないと考えられます。また、安価で高品質なモノ・サービスの流通により、それほどお金を遣わなくても、消費自体を楽しめることが、金額ベースでの消費の力弱さにつながっている面もあると考えられます。しかし、景気が拡大し、所得が増加しても、若者の将来の不安は払拭されず、年齢層の高い世代に比べて、消費額を増やしにくくなっている可能性があります。経済の好循環の実現という観点からは、若者の消費を拡大していくためには、若者が将来の生活について見通しを立てられるような環境の構築が求められます。

●情報化の進展により、SNS等の情報が若者の消費行動に影響

次に、現代の若者は、情報化が進展する中で、幼い頃から、インターネットやパソコン、携帯電話などがある環境で育ち、IT技術を使ったコミュニケーションにたけた「デジタルネイティブ」です。これに対し、年齢層の高い世代は、人生半ばからIT関連の知識や技術を身に付けてきた「デジタルイミグラント」と呼ばれます。「デジタルネイティブ」世代である若者は、「デジタルイミグラント」世代とは情報通信の活用の仕方が大きく異なっており、このことが、若者の行動や意識に影響を及ぼしていると考えられます。

ほとんどの若者が、携帯電話やスマートフォンを生活になくてはならないものと考えています。若者は、スマートフォンの保有率が特に高く、インターネットでの検索、通話、メール、SNS、ゲーム、チケット予約等の多様な用途に利用しています。これがLINE調査の結果であることを考慮しても、15歳から25歳までの平均利用時間が5.5時間という結果は、多くの若者が1日の相当な時間をスマートフォン利用に当てていることを示しています。

このため、若者は、消費行動においても、インターネットからの情報収集を多用していると考えられます。中でも、スマートフォンで操作しやすいSNSの利用度が高く、友達、芸能人や有名人、お店やメーカーといった、SNSでつながっているコミュニティからの情報がきっかけで消費行動を行っている若者は、年齢層の高い世代より多いことが示されています。さらに、身の回りの出来事を写真や動画を用いて情報発信しており、むしろ情報発信のために行動しているという面もみられます。

情報化の進展により、どこにいても全世界の多様な人々とつながることが可能になっていますが、一方で、現実のコミュニケーションは、SNSでつながっている友人や相手等の限られた範囲内にとどまってしまう若者も多数存在すると考えられます。情報化の進展により、迅速な対応や行動が求められるがために、手近にアクセスできる情報の中で判断せざるを得ない場面も生じている可能性もあります。若者の方が、情報が多すぎて選択ができなくなったり、買うことをやめてしまう、という行動をとっている傾向にあるという民間調査機関の調査結果もあります。

●若者の消費行動は時代を先取り

これらの社会経済環境の変化は、若者ほど顕著ではありませんが、若者だけでなく、年齢層の高い世代の消費行動や意識にも影響を及ぼしていると考えられます。現代の若者が次代の社会の担い手となることや、若者の行動に大きな影響を及ぼしている情報化の進展は後戻りしない状況にあることを踏まえれば、若者の消費行動や意識の特徴は、時代を先取りしたものであり、今後、幅広い世代に広まっていくものである可能性があります。

●若者の参画による、若者のための、消費者としての自立支援に向けた取組

若者の消費生活相談をみると、内容としては、進学や就職、一人暮らしの開始といった成人に達する前後の年代に特有の消費者トラブルや、SNSをきっかけとしたトラブルや美容にまつわるトラブル等、情報化の進展や若者の嗜好の変化に関連した消費者トラブルが生じています。

こうしたトラブルの背景として、若者には、「知識」、「社会経験」、「お金(資力)」が不足していることがあると考えられています。一方で、若者には、「体力」、「吸収力」、「行動力」があるといわれています。消費生活相談件数の推移をみると、若者の相談は減少傾向にあります。その要因の一つとして、若者がITに関する吸収力、行動力を利用して、トラブルに遭っても、インターネット等で情報収集し、自らトラブルを防ぎ、対処していることもあると考えられます。第1部第1章で示されたように、情報通信の中でも特にトラブルの多い「アダルト情報サイト」の相談は、スマートフォン操作に慣れている若者では減少しています。

若者の消費者トラブルを防ぐために、また、若者自身が次代を担う消費者市民としての力量を付けていくことをも視野に入れて、各地で様々な消費者教育等、若者の消費者としての自立支援の活動が実践されています。消費者に対する教育や啓発は、事業を実施するだけでは意味がなく、若者が理解し、その消費行動を高めるといった効果があることが重要です。いくつかの先進的な活動からは、若者を対象とする消費者教育や啓発活動においては、その内容が若者の行動、ニーズや興味に合っていること、若者自身の主体的な関与や参画が重要であること等が浮かび上がっています。

ニーズや興味という点からは、社会人生活の開始時期、一人暮らしの開始直前等、若者が消費者として新たな段階に入るときに、消費者教育を実施することは効果的と考えられます。また、若者がインターネットから様々な情報を入手していることを考えれば、インターネットを利用して、消費者教育や啓発活動に関する情報を効果的に提供することも求められています。若者のアクセスを高めるために、例えば、「お笑い」やアクセス数の競争等といった若者のニーズや興味に合った仕掛けも有効と考えられます。

そして、若者自身の主体的な関与、参画(アクティブ・ラーニング)という面については、若者が消費者教育、啓発活動に受身ではなく、主体的に関わることによって、内容についての理解が深まると考えられます。また、若者から伝えることによって、同じ若い世代やより若い子供たちに伝わりやすくなるといった効果も生じています。こうした活動を通じて、消費者市民社会を構築する担い手が育つことも期待されます。

さらに、若者が参画することによって、より教育効果の高い教材の開発等も期待されます。例えば、消費者団体では、消費者被害トラブル防止についてのDVDの作成に当たって、筋書きは消費者問題に精通している団体で作成し、映像制作は大学生に依頼するという試みを行いました。映像制作や映像で伝えるということについては、情報化の中で育った若者には、年齢層の高い世代に比べて、得意であると考えられます。現代の若者の特性を活用することにより、若者だけでなく、他の世代にも伝わりやすい教材等の作成が期待されます。

●真に豊かな暮らしの実現に向けて

少子高齢化が進む中では、若者の人口全体に占める割合の低下が見込まれます。しかし、真に豊かな暮らしの実現に向けて、若者の存在が非常に重要です。

現在、IoT(Internet of things)、ビックデータ、人工知能(AI)、ロボット等、第4次産業革命と呼ばれるような、IT技術を使った技術革新が期待されています。IoTにより全てのものがインターネットでつながる、それを通じて収集・蓄積される、いわゆるビッグデータが人工知能により分析される、その結果とロボットや情報端末等を活用することで今まで想像できなかった商品やサービスが次々と世の中に登場する、といったことも予想されます。

こうした新しい技術を活用した製品やサービスについては、現在スマートフォンが特に普及していることから、新しいものが好きな若者によって活用され、幅広い世代に広まることが期待されます。また、これにより、これまでの生活における課題の解決や新たな魅力的なサービスの開発やその普及が期待されます。

現在の消費の傾向については、「モノ消費」から「コト消費」に移行しているということがいわれます。モノを所有することから、得られる体験(コト)を求めるように、消費者の価値観が変化していると考えられます。「コト消費」については、「社会経験」を積んだ年齢層の高い世代で、若者以上に好まれる傾向もみられますが、例えば、SNSへ投稿する写真や動画を撮影するために外食や友達と集まるといったコトを行うといった、情報化と結び付いた「コト消費」を行うのは、若者が主流です。前述のIoTや人工知能といった情報化と関連しながら、若者ならではの視点から新たな「コト消費」が始まることが期待されます。2017年2月からは、「プレミアムフライデー」が始まったことも踏まえ、「コト消費」を楽しみやすい時間を持つ環境を整えることも、若者も含め幅広い世代の潜在的な消費ニーズの喚起につながると考えられます。

また、これまでみてきたように、若者の消費行動は、時代の変化を先取りしていると考えられますが、この行動を的確に把握することが必要です。総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」報告では、ビッグデータ等の活用やオンライン家計簿の導入等による家計調査の改善、単身モニター調査の実施等、消費関連統計の改善・高度化が提言されています。消費関連の統計の充実により、若者の行動、消費行動をより的確に把握できることが期待されます。

【参考文献】
経済産業省(2017)「消費者理解に基づく消費経済市場の活性化」研究会(消費インテリジェンス研究会)報告書
下田裕介(2016)「環境とトレンドからみる若年層の消費低迷―消費の世代交代を図るべく、若年層の将来不安払しょくを」日本総研 リサーチ・フォーカス №2016-019
久我尚子(2014)『若者は本当にお金がないのか?~統計データが語る意外な真実~』光文社新書
原田曜平(2013)『さとり世代―盗んだバイクで走り出さない若者たち』角川oneテーマ21新書

担当:消費者調査課