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第1部 第2章 第1節(3)フィンテック(FinTech)

第1部 消費者意識・行動と消費者問題の動向

第2章 消費者を取り巻く社会経済情勢と消費者意識・行動

第1節 消費者を取り巻く社会経済情勢

(3)フィンテック(FinTech)

●フィンテックとは

近年、フィンテック(FinTech)と呼ばれる、ITを活用して仮想通貨や自動家計簿サービスなど新たな金融サービスを提供する動きが世界中でみられ、今後、日本でも利用者が増えると見込まれます。

フィンテックは、インターネット、ビッグデータ、人工知能、ブロックチェーン(注47)等の技術を用いて、これまでにない高い利便性と低コストを実現しています。

フィンテックの高い利便性は、消費者の行動に変革をもたらすとともに、コストの低さやアクセスの良さから、消費者の利益に資するものとして注目することができます。これまで、例えば資産運用などの金融サービスを縁遠いものと感じていた消費者が、サービスを享受しやすくなるという可能性を有しています。

また、従来の金融機関が提供するサービスや構築してきたシステムにとらわれず、上記の技術やアイディアを用いた新しい事業者が参入してきているのも特徴の一つです。

●フィンテックによる主な消費者向けサービス

フィンテックによるサービスは多様で、その範囲や技術について明確な定義があるわけではありませんが、現時点における消費者向けの主なサービスとして、以下のようなものがあります。

1 決済・送金(図表I-2-1-24)

仮想通貨(暗号通貨)、電子マネー等を用いたサービスにより、手数料が低い小口送金、個人間送金、国際送金を実現する。スマートフォン等を利用し、インターネットを通じたモバイル決済が可能となる。

2 個人資産管理(図表I-2-1-25)

毎月の収入、支出や、銀行、証券、保険、預貯金など分散している資産データを一括して管理(家計管理)することにより、自分のお金の収支の内訳や推移などを「見える化」し、計画的な支出等に資する。人工知能により、投資へのアドバイスや確定申告のサポート、異常な支出の検知につながる。

3 資産運用支援(図表I-2-1-26)

人工知能の導入により運用の支援機能が自動化され、手数料や信託報酬が逓減される(例:ロボ・アドバイザー)。ITの活用により、小口投資家にも充実した情報を提供することができる。

4 クラウドファンディング(出資・事前購入・寄付)

インターネット上で公開した資金募集案件に対して投資者や寄付金を募る仕組みであり、支援金で開発した商品・サービスの事前購入や、寄付先から進捗報告等の受領が可能になる。

5 資金調達(図表I-2-1-27)

従来の銀行等の融資と異なる審査・評価基準(データを活用して信用力をスコア(クレジットスコア)化する等)でスピード融資を可能とする。個人、事業者等からソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)の仕組みで資金提供を受ける。

6 保険(図表I-2-1-28)

行動特性や運転特性等を通信技術でデータ化し、病気・事故リスクに応じた適正な医療保険料、自動車保険料等の設定を可能とする。

●フィンテックに関する消費者意識

消費者庁では、フィンテックのサービスが認知されているか、また、期待や不安があるか等について、インターネット調査によって消費者にアンケートを実施しましたので、主な結果を紹介します。

○フィンテックを知っているのは約1割

調査時点(2017年2月)で、フィンテックを「知らないし、利用したこともない」との回答が78.3%を占めました(図表I-21-29)。年齢層別にみると、年齢層が若いほど、認知度が高い傾向があります。サービスを知ったきっかけとしては、マスメディアの報道や経済・ITの専門誌からの情報を挙げる人が多くなっています。

○非利用者からの期待は低い一方、利用者からの評価は高い

フィンテックの各サービスを利用している割合は、「モバイル決済」が3.5%、「個人資産管理」が1.4%等でした。

「利用していない」と回答した人に、各サービスが普及すると便利だと感じるか聞いたところ、「よく分からない」という回答が64.0%でした(図表I-2-1-30)。各サービスを今後、利用してみたいと思うか聞いたところ、「今後も利用するつもりはない」と回答した人が77.6%、「利用上不安に思う点が解消されれば利用したい」と回答した人が12.8%でした(図表I-2-1-31)。

一方で、「利用している」と回答した人の約半数が日常的に利用しており、95.6%が便利だと感じています。

利用者と非利用者とで認識や期待の違いが大きく出た結果になりました。

○個人情報の流出、本人なりすまし等に不安を感じる人は半数

フィンテックの各サービスが普及した場合に不安を感じるか聞いたところ、「非常に不安」、「やや不安」と回答した人が32.3%、「分からない」と回答した人が46.2%でした(図表I-2-1-32)。

消費者が不安と考える内容としては、「個人情報の流出」、「本人認証を悪用される等によるなりすましの詐欺等」がそれぞれ79.3%、67.3%(複数回答可)と上位を占めました(図表I-2-1-33)。

非対面の個人認証方法としては、指紋認証等の生体認証の利用が、セキュリティや利便性の観点から使用したいものとして選択されました。

●国内におけるフィンテックの進展

これらの消費者意識を踏まえると、国内におけるフィンテックの普及はまだ始まったばかりと考えられる一方で、実際にサービスを利用している人からはおおむね高い評価を得られているようです。

フィンテックの技術やサービスも発展途上で、今後も新たなサービスが開発され、普及する可能性があります。 個人情報(ID、パスワード、カード番号、セキュリティコードなど)の流出やなりすまし等、新たなサービスに対し消費者が不安を抱いている点を、制度整備や技術の向上により克服し、安全性が周知されることによって、フィンテックの普及が進み、より低コストで利便性の高い金融サービスを多くの消費者が享受できると考えられます。

一方で、インターネット等の利用を前提としたサービスであるため、これらにアクセスできない消費者とのサービスの格差に留意する必要があります。


  • (注47)分散型ネットワークを構成する多数のコンピューターに、公開鍵暗号などの暗号技術を組み合わせ、取引情報などのデータを同期して記録する手法。ビットコイン等の暗号通貨に用いられる基盤技術。

担当:参事官(調査研究・国際担当)