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第1部 第1章 第1節 地方消費者行政の機能

第1部 消費者行動・意識と消費者問題の現状

第1章 【特集】地方消費者行政の充実・強化に向けて

第1節 地方消費者行政の機能

●国、地方一体となった消費者行政の強化

消費者への具体的な消費者被害を防止し、又は発生した消費者問題を解決・救済していくためには、実際に消費が行われ、様々な問題が発生する現場であるとともに、消費者に身近である「地域」における取組が果たす役割が極めて大きいと言えます。

2009年に、社会状況の変化等とともに複雑化の傾向にある消費者問題に対し、消費者の視点に立って迅速に政策を行う新たな組織として、消費者庁・消費者委員会が発足しました。その検討の中においても、地方消費者行政の強化が重視されました。現在の消費者庁に当たる新組織の創設に向けて、2008年に閣議決定された「消費者行政推進基本計画」において、地方公共団体の消費生活相談窓口を全ての消費者が相談できる一元的な相談窓口と位置付け、全国ネットワークを構築することや、地方分権を基本としつつ、地方の消費者行政を抜本的に強化することが必要であるとされました。また、地方の消費生活センターを法的に位置付けること、国は相当の財源確保に努めること、PIO-NET等の国の直轄事業を充実するとともに、地方交付税上の措置や税制上の措置等を検討することが示されました。

消費者の安全・安心を確保していく上で、地方公共団体と国及び地域の関係機関が連携し、地方消費者行政を充実・強化していくことは、重要な課題となっています。

●国と地方の連携による消費者行政の推進

国と地方の消費者行政機関が、それぞれの役割を果たすことによって、消費者行政を推進しています(図表1-1-1)。

消費者からの相談や苦情を受け付け、問題の解決などに当たるのは、都道府県や市区町村に置かれている「消費生活センター」を始めとする消費生活相談窓口(以下、「消費生活センター等」といいます。)です。

消費者庁は、消費者行政の司令塔として、全国の消費生活センター等に寄せられた相談などの情報を一元的に集約して、必要に応じて、事業者に対する法的措置を講ずるほか、消費者事故等に関する情報について消費者に対する注意喚起を行うとともに、新たな課題を解決するための必要な制度的枠組みを構築します。これらに基づき、地方公共団体は、地域における消費者行政を実施しています。また、第3節で後述するように、消費者庁は、地方消費者行政の強化に向けて、地方公共団体を支援する取組も行っています。

また、独立行政法人国民生活センター(以下「国民生活センター」といいます。)は、消費者行政における中核的な実施機関として、消費生活センター等に対して解決が困難な相談に関するアドバイスをするとともに、最寄りの消費生活センター等につながらなかった消費者からの相談を受け付けているほか、PIO-NETを通じた消費生活相談情報の収集、分析や商品テスト事業、消費者行政担当職員や消費生活相談員等の能力向上のための研修等の実施により、地方の消費者行政の支援となる取組を行っています。

●地方消費者行政の位置付けや役割

地域住民の声に真摯に耳を傾け、それに丁寧に対応していくことは、地方公共団体業務の根幹と言えます。消費者に起きたトラブルへの対応も正に同様であり、地域における消費者行政に係る事務は、自治事務と位置付けられていますが、消費者庁と連携しながら地方公共団体における体制整備を推進していくことは、消費者行政の大きな課題となっています。

地方消費者行政が法令上明文化されたのは、1968年に制定された「消費者保護基本法」(注1)です。翌1969年の地方自治法改正では、「消費者の保護」が地方の固有事務として規定されました(注2)。それを受け、消費者政策専管部局や消費生活相談窓口の設置が進められました。

その後、地域の実情に応じた施策を講ずるため、都道府県・政令指定都市(以下「政令市」といいます。)等で消費者保護条例が順次制定されていきました。2000年の地方自治法の大改正で、他の事務と同様に「消費者の保護」という文字は明示されなくなりましたが、消費生活条例は、地方公共団体が消費者行政を実施する場合の基本的な枠組みを定めると同時に、消費者の権利・役割並びに事業者及び行政の責務を明らかにしています。2015年4月1日現在、都道府県では全47都道府県、政令市では全20団体、その他の市区町村では142団体で消費生活条例が制定されています。

2009年に制定された消費者安全法では、地方公共団体が担うべき具体的な事務が規定されました。市町村においては、消費者からの苦情相談・苦情処理のあっせん、情報収集・提供、都道府県との情報交換を行うこと等が規定されています(消費者安全法第8条第2項)。都道府県においては、市町村に対する必要な助言、協力、情報の提供その他の援助、苦情相談・苦情処理のあっせんのうち広域的な見地を必要とするものへの対応、専門的な知識及び技術を必要とする調査・分析、広域的な見地から消費者安全の確保に必要な情報収集・提供、市町村との情報交換を行うこと等が規定されています(消費者安全法第8条第1項)。

消費者一人一人の安全で安心な暮らしを確保するためには、消費者にとって身近な地方消費者行政を充実・強化することが必要です。地方消費者行政の現場においては、実際に起こった消費者問題に対し、個々の消費者の立場に立って相談を受け付け、時には事業者との間に立ち、又は地域内の悪質事業者に対する法執行(行政処分等)を行っています。また、消費者に対し、消費者トラブルに関する最新の情報等について普及・啓発を行うとともに、消費者教育の取組を進めています(図表1-1-2 )。

以下、本節においては地方消費者行政の具体的な機能や、そこに従事する消費生活相談員について、紹介していきます。

●身近な相談窓口

消費者は、日常生活において、様々な商品を購入し、様々なサービスを利用しています。しかし、時には購入した商品に欠陥があり、生命・身体に危害を及ぼすような事故が発生したり、冷静な判断ができない環境で契約を結ぶことになったり、又はそもそも表示に誤りがあるために合理的な選択ができなかったりといったトラブルに直面することがあります。

消費者が消費者事故やトラブルに巻き込まれた場合は、各地方公共団体に置かれている消費生活センター等を利用することができます。

消費生活センター等では、消費生活相談員が消費者からの事業者に対する苦情や製品事故の苦情などの消費生活に関する相談に応じており、相談内容により問題解決のための助言を行っています(消費者安全法第8条第1項第2号イ及びロ、同条第2項第1号及び第2号)。また、必要に応じて、消費者自身では対応困難な個別事案の解決に向けて、消費生活相談員が直接事業者と消費者の間に入り、あっせんを行うことによりトラブルの解決を図っています。

「消費生活センター」は、消費者安全法に位置付けられており、都道府県においては必ず設置すること、市町村においては設置に努めることとされています(消費者安全法第10条)。消費生活センターの基準としては、①一週間に4日以上相談の窓口を開所していること、②消費生活相談について専門的な知識及び経験を有する者(消費生活相談員)を配置していること、③PIO-NETなどの電子情報処理組織その他の設備を備えていることとされています(図表1-1-3)。なお、この基準は満たさないものの、相談窓口を設置している市区町村もあり、現在、全ての市区町村に消費生活相談窓口が設置されています。

消費者から消費生活センター等に寄せられた消費生活相談により得られた情報は、国民生活センターが運営するシステムであるPIO-NETに集約されます。PIO-NETに一元的に集約することで、消費生活センター等や国民生活センターだけでなく、中央省庁や独立行政法人といった関係機関においても情報が利用され、法執行への活用、国の消費者施策の企画・立案及び国民への情報提供等を通じて、消費者事故・トラブルの再発、拡大防止に役立てられます。

●普及・啓発及び消費者教育

消費生活センター等においては、消費者からの相談を解決するだけではなく、消費者被害の未然防止のため、又は暮らしに役立つ情報を伝えるため、各種パンフレットや資料を通じて情報を提供したり、暮らしの中で知っておきたい苦情相談の事例などをテーマとした講座を開催したりするなどの啓発活動を行っています。

また、消費者教育推進法の制定により、地方公共団体は、消費生活センター等や教育委員会等の関係機関による連携の下、国とともに消費者教育の施策を推進する責務を有することが明確化されました。そして、地方公共団体は、消費者教育の推進に係る計画を策定すること及び消費者教育推進地域協議会を設置することに努めるものとされています。「消費者教育の推進に関する基本的な方針」(2013年6月閣議決定)では、「誰もが、どこに住んでいても、生涯を通じて、様々な場で、消費者教育を受けることができる機会を提供する」ことを目指すこととしており、国や地方公共団体においては、学校だけでなく、地域、家庭、職域その他の様々な場においても消費者教育が受けられるようにする必要があると明記されました。そのため、特に、消費生活センター等を消費者教育の拠点とし、そこに様々な情報を集約して地域住民に消費者教育を提供する場として、また、消費者教育の担い手を支援する場として活用することが期待されています(図表1-1-4 )。

●法執行

消費者の安全・安心を確保するため、地方公共団体においては、消費者からの苦情・相談やあっせんに適切に対応するだけでなく、被害をもたらしている事業者の行為を是正し、被害の拡大の防止を図るなど特定商取引法や景品表示法に基づく法執行に取り組んでいます(付表1[EXCEL:17KB])。

全国的に被害が及んでいる、又は、及ぶおそれのある事案などに対応していくに当たり、消費者の生活の「現場」により近い立場にある地方公共団体による法の執行は不可欠です。国と地方が情報共有を進めて法を厳正に執行し、被害をもたらしている事業者の行為を是正することは、消費者被害の拡大を防止するとともに、軽減、予防することにつながります。

しかしながら、都道府県における法執行の状況を見ると、大都市圏を中心に積極的に執行を行っている地域がある一方で、人材やノウハウの不足などの理由から、十分に執行を行えない地域もあるなど、執行の実施には都道府県間でばらつきが見られます。法執行の取組に地域間でばらつきがあることは、悪質な事業者が、執行の取組が進んでいない地域に活動の場を移すことにより、消費者被害を拡散させることも考えられることから、都道府県全体とともに国としても法執行の強化に向けた取組が必要であるといえます。

●商品テスト

地方公共団体においては、消費者からの依頼や、消費者から寄せられた商品等に関する苦情等の消費生活相談に対応するため、例えば、クリーニング関連の商品など、比較的迅速に実施できるものを中心として商品テストを実施しています。また、商品テストを実施することは、製品事故等の原因を究明することにもつながっています。2015年4月現在では、商品テストの実施設備を、都道府県で24都道府県(51.1%)、政令市で7市(35.0%)、市区町村等で49団体(2.8%)が整備しています。

一方、機器の配備や担当職員の配置ができないなどの理由により自ら商品テストを実施できない地方公共団体においても、消費生活相談に対応するために必要となる場合には、国民生活センターに相談解決のためのテストを依頼して報告書を得る、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)に事故情報を提供して調査結果の公表を待つなどの対応を行なっています。

さらに、消費者の商品選択に資する情報を提供するために行われる商品比較テストが、例えば、食料品や台所用品など暮らしの中で役立つような身近なテーマについて、地方公共団体と消費者団体等により実施されています。

●消費生活相談員とは

消費生活相談の事務を担い、情報の量や質、交渉力等において事業者との間に格差のある消費者を支えるのは、消費生活相談員です。そのため、消費生活相談員の水準を確保し向上させることは、消費者の権利の尊重及び自立の支援のために不可欠です。

消費生活相談員には、①事業者に対する消費者からの苦情に係る相談に応じ、必要な場合には、あっせん等によりその解決を図る、②消費生活の専門家としての観点から、消費者による主体的な問題解決の促進・支援のため、一般的な消費生活に係る適切な助言を行う、③他の専門機関へ紹介する、④相談結果を整理・分析し、消費者教育・消費者啓発へ活用することや関係部局に対して情報提供する、といった役割を果たすことが求められています。

このように、消費生活相談員は、地方消費者行政において大きな役割を果たすことを期待されていながら、消費者安全法の改正前においては、消費生活センターの設置に関する要件として規定されているのみであり、その法的位置付けは必ずしも明確ではありませんでした。

2016年4月1日に施行された消費者安全法の改正法(以下、改正後の消費者安全法を「改正消費者安全法」といいます。)では、地方公共団体における消費生活相談員の人材の確保や質の向上のため、消費生活相談員の職を法律上に明確に位置付けるとともに、内閣総理大臣の登録を受けた機関により実施される消費生活相談員に関する資格試験制度を創設しました。その上で、新しい資格試験に合格することや、これと同等以上の専門的な知識及び技術を有すると都道府県知事若しくは市町村長に認められることを、消費生活相談員の要件としています(改正消費者安全法第10条の3第1項)。これにより、消費者及び事業者の信頼が確保され、現場の消費生活相談・あっせん業務の実効性の向上が期待されます。

図表1-1-1消費者行政の基本的な枠組み

図表1-1-2消費者被害・トラブルへの対応を中心とした地方消費者行政の状況

図表1-1-3消費者安全法上の消費生活センター

図表1-1-4消費者教育の推進体制


  • (注1)1968年に制定された「消費者保護基本法」では、「地方公共団体は、国の施策に準じて施策を講ずるとともに、当該地域の社会的、経済的状況に応じた消費者の保護に関する施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する」、「市町村(特別区を含む。)は、事業者と消費者との間の取引に関して生じた苦情のあっせん等に努めなければならない」、「国及び都道府県は、事業者と消費者との間の取引に関して生じた苦情が適切かつ迅速に処理されるようにするために必要な施策を講ずるよう努めなければならない」と規定されていた。同法は、2004年に改正され、「消費者基本法」となっているが、同法では、地方公共団体の責務について、「消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのっとり、国の施策に準じて施策を講ずるとともに、当該地域の社会的、経済的状況に応じた消費者政策を推進する責務を有する」と規定している。
  • (注2)2000年の地方自治法の大改正で、他の事務と横並びで「消費者の保護」という文字は明示されなくなったものの、引き続き「自治事務」として位置付けられている。

担当:消費者調査課