平成26年版消費者白書

コラム5

ビッグデータと消費者保護

東京大学大学院法学政治学研究科教授 宇賀 克也

東京大学大学院法学政治学研究科 教授

宇賀 克也

情報通信技術の急速な進展により、膨大なデータが集積され、容易に収集・分析が可能になりました。このビッグデータの中でも、とりわけ、パーソナルデータの利活用に対する産業界の期待は高まっています。しかし、そのためには、プライバシー保護が的確に行われることが前提になります。

「個人情報の保護に関する法律」では、特定の個人が識別できなければ個人情報ではなくなるので、同法の規制はかからなくなります。したがって、特定の個人が識別されないように匿名化を行えば、同法に違反せずに当該情報を利活用できることになります。もっとも、匿名化された状態とは何かは決して明確ではありません。なぜならば、個人情報から氏名、住所等のそれ自体で容易に個人を識別できる情報を削除しても、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別できる場合には、当該情報は個人情報であるからです。そして、情報の照合を考慮すると、個人情報の匿名化はビッグデータの時代には、困難になることが多いのです。なぜならば、インターネット上には膨大な情報が存在するため、照合の対象になる情報もきわめて多く、想定外の照合がなされてしまう可能性が高くなっており、さらに、情報通信技術の飛躍的な発展のため、従前は困難であった照合が容易に行える場合も増大しているからです。そのため、どの程度の措置を講ずれば匿名化が行われたといえるのかが不明確になり、このことは、パーソナルデータの利活用を企業に躊ちゅう躇ちょさせる原因になるとともに、パーソナルデータの利活用をしている企業としては匿名化したつもりであっても、実際には匿名化が不十分でプライバシー侵害が生じてしまうケースを生じさせています。

したがって、企業にとっても、パーソナルデータの利活用ルールを明確化することが、その利活用を過度に躊躇する状態を解消し、主観的には十分であると考えた匿名化が後に不十分と批判されるリスクを回避する観点から望まれることになります。他方において、消費者にとっても、パーソナルデータの利活用ルールの明確化は、適切な匿名化措置を講じたパーソナルデータの利活用により、自らの利便の向上につながることが期待されますし、不明確なルールの下で不十分な匿名化のままパーソナルデータが利活用されることによるプライバシー侵害のリスクの回避につながることになります。

さらに、IPアドレスを利活用した行動ターゲティング広告のように、特定の個人を識別できなくても、同一の人物であることを識別している場合、個人情報でないという一事をもって、その利活用に対する法的規制が皆無であってよいわけではなく、他の情報と結合することにより、特定の個人が識別される蓋然性が高い以上、プライバシー保護の観点からの規制が必要と思われます。

このように、ビッグデータの時代に適合した個人情報保護法制の見直しは、喫緊の課題といえます。

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