平成26年版消費者白書

第1部 消費者行動・意識と消費者問題の現状

第5章 消費者政策の展開

第4節 諸外国の消費者政策体制及び国際的連携

●諸外国の消費者政策体制の進展

我が国と同様に、諸外国においても経済発展とともに消費者問題が顕在化し、各国の歴史的経緯や既存の中央省庁の仕組み等を踏まえた消費者政策体制が整備されてきました。ここでは、消費者政策の国際的な潮流のうち、我が国と主要国の消費者政策体制の進展について振り返ります122)

まず、我が国における消費者政策体制の進展を改めて見ると、消費者政策の始まりは第2次世界大戦後であり、戦後間もなく私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)、以下「独占禁止法」という。)(1947年)、食品衛生法(同年)、JAS法(1950年)、出資法(1954年)が制定されました。その後、経済の高度成長期を迎え、大量生産・大量販売の仕組みを背景に欠陥商品による消費者被害発生や不当表示事件などの消費者の生命・身体を脅かす事件が多発したため、政府においても消費者問題への取組が本格化し、食品衛生法の改正(1957年)を行ったほか、薬事法(1960年)、割賦販売法(1961年)、景品表示法(1962年)など消費者にとって重要な分野での法整備が進められました。さらに1968年には消費者保護基本法が制定され、消費者政策の基本的な枠組みが定められました。

法整備を受けて消費者政策体制も順次整備されました。1961年4月に都道府県として初めて東京都に、1963年1月に中央省庁として初めて農林省に、消費経済課が設置されました。経済企画庁では、1961年6月に国民生活向上対策審議会が発足し、1965年6月には消費者政策を担当する国民生活局が設置されました(2001年1月に内閣府に移管)。また、消費者問題の情報提供や苦情相談、商品テスト、教育研修などを担う国民生活センターが1970年10月に設立されました。

他方、地方公共団体についても消費者保護基本法でその責務が規定されるとともに、1969年に地方自治法(昭和22年法律第67号)で消費者保護が地方の事務として規定され、1970年代には消費者保護条例の制定が進められました。これを受け、兵庫県生活科学センターが1965年に設立される等、消費者政策専管部局や消費生活センターが地方公共団体に設置されました。

1970年代以降、大衆消費社会を背景とした製品の安全性に係る問題が更に大きくなるとともに、訪問販売や通信販売等で新しいタイプの消費者問題が発生するなど、消費者被害は食品・製品の品質・安全性に関するものから、その販売方法や契約などに関するものへと変化していき、この流れを受けて各種法整備が進められました。

2000年代に入り、食品偽装等消費者の安全・安心を脅かす消費者問題が再び頻発したことから、各府省庁で縦割りとなっていた消費者行政を一元化すべく、2009年9月に消費者庁及び消費者委員会が設置され、これに伴い内閣府国民生活局は廃止されました。現在では消費者庁が消費者行政の司令塔として消費者政策の企画立案を行うほか、所管法に基づく執行業務等を行っています。また、消費者委員会は独立した第三者機関として自ら調査審議を行い、政府の消費者行政全般に対して建議等を行うほか、内閣総理大臣や関係各大臣等の諮問に応じて調査審議を行っています。

以上のような、我が国における消費者政策体制の進展を踏まえ、これ以降、主要国の消費者政策体制の進展を見ていきます。

①アメリカ

大量生産・大量消費において世界の最先進国であったアメリカは、20世紀初頭、食品の安全性への不安を抱く世論を背景として1906年に「純正食品・医療品法」を制定する一方、一般化してきたトラスト(企業合同)の弊害を規制する独占禁止政策を推進する「連邦取引委員会法」を1914年に制定しました。これにより現在のアメリカの消費者行政の中心的組織である化学局(現在の食品医薬品局(FDA))、そして連邦取引委員会(FTC)が創設されました。また、1972年に「消費者製品安全法」が制定、1973年に消費者製品安全委員会(CPSC)が設置されたことにより、製品安全に関する体制整備が進みました。

②韓国

韓国では、飲食店、飲料水、牛乳などの別々であった規制を統合して1962年に「食品衛生法」が制定されました。また、1960年代後半から経済成長に伴う工業用品の生産の増大を受けて、その品質表示・品質検査及び品質向上を図ることによって消費者の利益を保護するとともに、工業用品の品質向上を目指す目的で1968年に「工産品品質管理法」が制定されました。

1980年には、改正した憲法において消費者保護運動の保障が規定され、更に、日本の消費者保護基本法をモデルにした「消費者保護法」が制定されました。1986年に消費者政策の総合的な推進のために同法が改正され、消費者の権利の明示とともに韓国消費者保護院が設立され、消費者紛争委員会が院内に設置される等、保護院を中心とした消費者政策が行われることになりました。

また、一定の商品に品質検査を義務付けるとともに違反に対する回収命令などを導入するため、1986年には「工産品品質管理法」が改正され、さらに「約款規制法」も制定されました。その後、公正取引委員会の消費者政策上の役割強化が進み、1996年に新設された同委員会の消費者局は、「約款規制法」、「表示・広告の公正化に関する法律」(1999年)を所管し、「訪問販売法」(1991年制定)、「割賦取引法」(1991年制定)の移管を受け、消費者保護と競争政策を車の両輪とする体制に移行していきました。また、民事ルールとして「製造物責任法」が2000年に制定され、情報化の進展に伴って「電子商取引消費者保護法」が2002年に制定されました。

2006年には消費者保護法が大幅に改正され、名称が「消費者基本法」に変更されました。「消費者基本法」では、消費者を保護されるべき対象から自立した経済の主体であると捉え直し、消費者の権益増進と消費生活の向上を目指す政策を行うこととされ、団体訴訟制度の規定も盛り込まれました。また、韓国消費者保護院が「韓国消費者院」と名称変更され、法執行能力の強化のため、2007年に公正取引委員会の傘下に置かれることになりました。2008年2月には消費者政策の総合調整の強化や企画立案機能の一元化のため、財政経済部の消費者保護部局を廃止し、「消費者基本法」などの所管を公正取引委員会に移管させています。

③スウェーデン

スウェーデンでは、20世紀前半から福祉国家の建設が進められましたが、1970年代はオイルショックに伴う世界的な不況の中で、重税・失業・インフレといった諸問題など、その経済負担の重さにより福祉国家路線に対する支持が揺らぎました。そうした社会的動揺の中で、政府が消費者政策の充実に着手し、1968年の国立消費者苦情処理委員会(ARN)の設立以降、1970年代の初めに消費者政策の基本的な体系が整備されました。

1971年に「不公正契約条項法」が制定されるとともに、スウェーデンの消費者保護制度として象徴的な消費者オンブズマン123)制度が世界で初めて導入され、あわせて、消費者問題を扱う専門裁判所として市場裁判所が設置されました。また、1973年には消費者研究所、製品申告所などを統合して消費者庁が設立されました。さらに、誤認表示などの不公正な取引方法や製品安全を規制する「マーケティング法」が1975年に制定されるとともに、1976年には消費者庁長官を消費者オンブズマンが兼務する体制が整えられました。このほか、1973年には欠陥商品や遅配などから消費者を保護する「消費者販売法」、1977年には信用販売に関する「消費者信用法」も整備されています。

④その他欧州

そのほかの主要国の消費者政策体制の進展を見ると、欧州では、健全な消費の基盤を確保することが経済の発展に資するという考え方に基づき、経済や産業に関する行政分野との関係に重点をおいて消費者保護が置かれている場合が多く、イギリスでは、経済発展に係る政策立案を一つの省庁に集約する観点から、関連省庁が統合されて2009 年6月に設立された「企業・イノベーション・技能省」が消費者政策を担当しています。

また、フランスでは、1983年に消費者安全に関する法律(通称ラミュミエール法)を採択したのを契機に、経済・財政・産業省(現、経済財務省)の内局である競争・消費者問題・詐欺防止総局が消費者政策を担当しており、消費者政策当局が経済・産業政策についても推進する体制となっています。

このように、諸外国ではそれぞれの国における消費者問題の歴史的経緯や法体系等に合わせて、各国の状況に見合った独自の消費者政策体制が形成されてきていることが分かります。

●諸外国の消費者政策体制の類型

消費者問題の国際的な広がりに伴い、諸外国の消費者政策の動向を十分に把握することが一層重要となってきています。諸外国の消費者政策体制は、各国における消費者問題の相違、食の安全に関する各国の経験の相違等、様々な要因を背景に異なる特徴を有していますが124)、下記のように大きく3つに類型されます(図表5-4-1)

また、主要国における、現在の主な消費者政策体制は以下のようになっています(図表5-4-2)

我が国の消費者政策体制の大きな変化である消費者庁及び消費者委員会の設置に当たっては、先に述べた主要国の消費者政策体制を参考に、消費者庁及び消費者委員会の機関としての在り方や持つべき機能が検討されました。

消費者行政は、地域の住民に対する行政サービスの一環であること、消費者問題の裾野が広く複数の行政分野に関わること等から、消費者政策体制、中央(連邦)政府と地方公共団体との関係、相談窓口の形態、他の消費者関連行政機関との連携・調整、消費者団体等外部機関との連携といった課題は、多くの国に共通するテーマであり、各国の取組の中には我が国にとって参考になる事例があると考えられます125)。しかしながら、我が国において消費者庁及び消費者委員会が設置されたように、諸外国でも消費者問題の動向等を踏まえて消費者政策体制の見直しがしばしば行われています。こうした諸外国の状況に関し、消費者庁では2009年度に続き、2012年度に「海外主要国における消費者政策体制等に係る総合的調査」を行っており、こうした調査等を通じて諸外国の最新の消費者政策体制の把握に努めています126)

●消費者政策に関する国際的連携の強化

消費生活における国際化の進展に伴い、消費者の安全と安心の確保、消費者と事業者との間の適正な取引の確保、苦情処理や紛争解決の促進等の様々な消費者政策を進める上では、国際的な連携を確保していくことが一層重要となっています。

1969年11月、消費者政策に関する加盟国間の情報及び経験の交換、討議並びに協力の推進を目的として、OECDに「消費者政策委員会(CCP)」が設置されました。CCPは「国際消費者機構(CI)」、「経済産業諮問委員会(BIAC)」等とも連携し、密に相談しながら活動しています。日本は副議長国の一国であり、消費者庁を含む関係府省庁が通常年2回開催される本会合に出席し、加盟国間の幅広い消費者問題に関する各プロジェクト127)に参加する等、CCPの活動に積極的に加わっています。また、消費者庁や関係府省庁は、1963年に消費者の健康の保護、食品の公正な取引の確保等を目的として「国連食糧農業機関(FAO)」と「世界保健機関(WHO)」により設置された国際的な政府間組織である「コーデックス委員会」(日本は1966年に加盟)、国際標準化機構(ISO)やISO下に設置された消費者政策委員会(COPOLCO)等にも積極的に関わっています。

一方、日本は日中韓3か国における消費者問題への対応についても、様々な連携強化を図っています。2004年9月に日中韓三か国の消費者政策当局等が参加する第1回「日中韓消費者政策協議会」が開催され、3か国における消費者政策の取組につき情報共有・意見交換を行いました。第2回協議会では、3当局間の消費者保護分野における協力関係の覚書案について基本合意し、2006年11月に署名を完了しました。以降、同協議会は定期的に開催され、第6回協議会は2014年7月に日本で開催される予定です。

加えて、1992年にロンドンで開催されたOECD/CCPアドホック会合により設立された、国境を越えた不正な取引行為を防止するための取組を促進することを目的とする、関係国における消費者行政の法執行当局をメンバーとする非公式会合「消費者保護及び執行のための国際ネットワーク(ICPEN)128)」等を通じて情報交換を行うこと等により、法執行機関の国際的な連携の強化を図っています。あわせて、参加国が一斉にウエブの監視を行うインターネット・スウィ-プ活動、詐欺防止月間キャンペーン等の共同プロジェクトに取り組んでいます。

図表5-4-1 諸外国の消費者政策体制

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図表5-4-2 諸外国の消費者政策等担当機関


122)

平成20年版国民生活白書(内閣府)第2章第1節「1.消費者を取り巻く環境の変遷と消費者政策」を基に最新の状況を加味して記述している。

123)

消費者オンブズマンは、商取引に関して消費者を代理する役割を担い、裁判所において集団訴訟という形で法的措置をとる権利を有する。オンブズマンとは、スウェーデン語で「代理人」という意味で19世紀初めにスウェーデンに設けられた公権力全般を監視する「国会オンブズマン」から世界に広がったとされる。一方、20世紀に入って特定分野において法執行などを担うオンブズマンが置かれるようになり、消費者オンブズマンもその一つと考えられる。したがって、消費者オンブズマンは公権力の監視を任務としていない。

124)

消費者庁「海外主要国における消費者政策体制等に係る総合的調査」(2012年度)。

125)

消費者庁「海外主要国における消費者政策体制等に係る総合的調査」(2012年度)。

126)

平成7年版国民生活白書(経済企画庁)では、「経済企画庁においては、消費者問題についての国際的な連携の必要性が増大するなかで、今後の我が国の消費者行政システムのあり方についての参考とするため、平成6年度より、主として消費者が自己責任原則に基づき行動するための環境整備がどのようになされているか等の視点から、欧米等の諸外国の消費者行政システムとその運用についての調査及び比較分析に取り組んでいる。」とされている。

127)

2014年4月時点では、「電子商取引」、「消費者の経済学」、「製品安全」等のプロジェクトを行っている。

128)

2003年4月にIMSN(International Marketing Supervision Network)からICPENへと名称変更が行われた。

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