平成26年版消費者白書

第1部 消費者行動・意識と消費者問題の現状

第4章 消費者問題の動向

第1節 消費者問題の概況

( 5 )消費者被害・トラブル額の推計

●消費者被害・トラブル額推計の必要性

消費者行政の使命の一つは、悪質商法を始めとする様々な消費者被害・トラブル(以下本節において「消費者被害等」という。)から消費者を守ることにあります。しかし、消費者行政が対処すべき消費者被害等は現実にどの程度の規模で存在するのかはっきりは分かりません。例えば交通事故であれば、運転手には道路交通法(昭和35年法律第105号)により警察への報告が義務付けられていますが、消費者被害等に関しては消費者にこうした報告義務があるわけではなく、実際に全国の消費生活センター等の行政機関の相談窓口へ相談がなされるのは全体の2~3%程度となっています89)。また、事故の態様から明らかである交通事故とは異なり、何をもって消費者被害等とするのかも必ずしも明確ではありません。

しかしながら、道路交通行政の分野では交通事故の年間件数や年間死傷者数がベンチマークとして用いられているように、消費者行政の分野においても、行政評価・政策評価の客観的な指標の一つとして消費者被害等の状況を可視化する必要があります。消費者被害等の状況を把握するための一つの指標として、全国の消費生活センター等に寄せられた相談情報(PIO-NET情報)があり、この白書でも様々な消費者被害等の状況を説明するために相談情報を活用しています。これは、消費者被害等の端緒やトレンドを把握するためには極めて有効な情報ですが、あくまで消費者やその家族等から相談があったものだけに限られており、相談情報に現れない実際の消費者被害等の規模がどの程度なのかはこれだけでは明らかにすることはできません。

そこで今回、消費者庁では消費者被害等の全体のおおまかな規模を明らかにするため、過去の取組や海外の事例等を参考に、消費者被害・トラブル額の推計を試みました。


●消費者被害・トラブル額の推計方法

今回の消費者被害・トラブル額の推計は、2008年に内閣府が公表90)した推計及び海外における同様の事例を参考に、消費者被害等の推計件数に消費者被害等の平均金額を乗じる手法により実施しました。具体的には、消費者被害・トラブル額は単純化すると「消費者被害等の総数」×「消費者被害等1件当たりの平均金額」で求めることができるため、まず全国の満15歳以上から無作為抽出して意識調査91)を行い消費者被害等の「発生確率」を求めた上で消費者被害等の総数を推計し92)、これに相談情報(PIO-NET情報)93)から計算される平均金額94)を乗じ、所要の補正を行って推計値を算出するという手法を採っています。

また、今回の推計に際して、推計手法の精緻化を図るために以下の工夫を行っています。


①実態に近い消費者被害等の件数の把握

一口に「消費者被害等」と言っても、悪質商法による詐欺的なもの、契約・解約時のトラブル、粗悪品の販売、不適正な表示・広告に基づく誤解による購入、強引な勧誘による意図しない購入等様々なものがあり、単に消費者被害等の経験の有無を尋ねても回答者は自身の被害について正確に回答することは困難です。そこで、上の例のような消費者被害等の態様別に経験を尋ねることにより、より実態に近い消費者被害等の件数の把握を行っています。


②相談情報(PIO-NET情報)の特性に応じた補正

今回の推計では、PIO-NET情報の「契約購入金額」「既支払額」といった項目により平均金額を算出していますが、実際には消費者は小さな消費者被害等ではわざわざ消費生活センター等に相談をすることはせず、より深刻な消費者被害等ほど相談率は高いものと考えられ、PIO-NET情報から得られる平均金額は実態より相当高い水準にあるものと推測されます。そこでこうした相談情報の特性を考慮し、少額のものと高額のものを分けて推計することで推計値の補正を行っています。


③高齢者の特性に応じた補正

図表4-1-15で見たように、近年高齢者の消費者被害等が大幅に増加していますが、高齢者の特性として、本人が被害に気付かず相談しないということがあり(図表5-2-2参照)、特に認知症の高齢者等に顕著に見られる傾向があります。このため、本人が自ら回答することが前提の意識調査では、本人が認識していない消費者被害が十分に把握できない可能性があります。そこで今回の推計では、こうした高齢者の潜在被害が一定数存在するものと仮定し、その分を推計値に上乗せする形で補正を行っています。

以上により、実際に推計を実施した結果、2013年(暦年)1年間の消費者被害・トラブル額(消費者被害・トラブルに関する商品・サービス等への支出総額)は、約1,010万件の消費者被害等の件数(推計)に対し約6.0兆円との推計結果が得られています(図表4-1-33)

なお、検討に際しては、消費者庁において「消費者被害に関連する数値指標の整備に関する検討会」(座長:田口義明名古屋経済大学消費者問題研究所所長)を2013年11月~2014年3月までに計4回開催し、推計手法等について検討を行いました。

ここでは、「契約購入金額」「既支払額(信用供与含む)」「既支払額」の3つの推計値を示しています。このうち、「既支払額」(実際に消費者が事業者に既に支払ってしまった金額)に「信用供与」(クレジットカード等で決済しており、まだ支払いは発生していないがいずれ引き落とされる金額)分を加えたものが消費者が負担した金額の実態に近いものとして取り扱っています。

なお、本推計はあくまで消費者の意識に基づくものであり、消費者被害の捉え方が回答者により異なること、意識調査の性格上一定の誤差95)を含むものであること等から、少なくとも毎年の短期的な増減を政策評価等に用いるには、必ずしも十分な精度が期待できるものではありません。ただし、今後毎年推計を実施していくことにより、中長期的に見れば消費者行政の成果を測定する上で有効な指標となります。

この推計から得られた約6.0兆円という消費者被害・トラブル額は、国内総生産(GDP)の約1.2%、家計支出の約2.1%に相当する規模のものであり、また、国民の13人に1人が1年間に何らかの消費者被害に遭っていることになります。また、平均被害・トラブル額(既支払額(信用供与含む))は約59万円、国民一人当たりでいうと約4.7万円という深刻なものとなっています。なお、具体的な被害の内訳を本推計により示すことは困難ですが、PIO-NET情報を併せて考えると、1件当たりの被害・トラブル額が高額となる傾向のある金融商品や建築・不動産関係の消費者被害等が相当部分を占めるものと考えられます。

図表4-1-33 消費者被害・トラブルに関する商品・サービス等への支出総額(2013年)


89)

例えば、消費者庁「消費者意識基本調査」(2013年度)では2.5%、国民生活センター「国民生活動向調査」(2013年度)では2.8%。

90)

平成20年版国民生活白書(内閣府)では、消費者被害に伴う経済的損失額を最大3.4兆円(契約購入金額ベース)等とする推計結果が公表されている。

91)

消費者庁「消費者意識基本調査」(2013年度)において、層化2段無作為抽出法により抽出した全国の満15歳以上1万人(全国400地点)を対象に訪問留置・訪問回収法により調査を実施。調査時期は2014年1月16日~2月9日、回収率は65.3%。

92)

意識調査結果からは、1年間に人口100人当たり約8.9件の消費者被害等が認知されているとの結果を得た。これを基に消費者被害等の件数を推計している。

93)

2013年の消費生活相談情報(2014年1月31日までの登録分)を用いている。

94)

厳密には、PIO-NET情報から得られる金額は「契約購入金額」や「既支払額」であり、消費者被害・トラブル額とは異なるが、他に活用可能な金額情報が存在しないことからこれらの数値で代替している。なお、「消費者意識基本調査」では試験的に被害相当額、派生的な被害額、問題対応費用等についても尋ねているが、サンプルの少なさ及び回答の正確性の問題のため、推計に用いるには精度が不十分なものと判断した。また、このような性格から、本推計値は厳密には「消費者被害・トラブルに関する商品・サービス等への支出総額」と称すべきものだが、便宜上「消費者被害・トラブル額」と表現している。なお、多重債務者問題等により深刻化している消費者金融等の融資サービスによる消費者被害等も消費者問題の重要な一分野であるが、技術的な観点から今回の推計には含めていない。

95)

標本誤差は95%の確率で約0.67%となり、既支払額(信用供与含む)ベースでの消費者被害額は約5.5~6.5兆円の幅で示される。

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