平成26年版消費者白書

コラム10

消費者裁判手続特例法の施行に向けて ―特定適格消費者団体に期待される役割

早稲田大学大学院法務研究科教授 伊藤 眞

早稲田大学大学院法務研究科教授

伊藤 眞

昨年末、「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(平成25年法律第96号。以下、「特例法」といい、この法律に基づいて行われる手続を「消費者被害回復裁判手続」と呼びます。)が成立しました。この法律は公布の日(2013年12月11日)から3年を超えない範囲内の施行が予定されており、関連法令や最高裁規則などの立案作業が精力的に進められている模様ですが、新たな制度の意義や運用に対する期待についての愚見を述べてみたいと思います。

1 .画期的な制度であること

消費者被害は、いわゆる集団的被害の代表例といってよいかと思いますが113)、現在までのところ、それをめぐる紛争の解決を目的とする特別の手続は存在していませんでした114)。特例法は、消費者被害の回復の任務を担うにふさわしいと認められた特定適格消費者団体が、多数の消費者のために、その権利の確定と実現を目指して手続を遂行する点で、画期的な制度といえます。

2 .二段階構造の意義―消費者と事業者の正当な利益保護に十分な配慮がなされていること

特例法に基づく消費者被害回復裁判手続は、事業者が多数の消費者に対する金銭の支払義務を負うかどうかを確定する「共通義務確認訴訟」の段階と、支払義務が存在することを前提として、個々の消費者の支払請求権の存否や内容を確定する「簡易確定手続」・「異義後の訴訟」の段階の2つから成り立っています。この二段階構造は、一見すると回り道のようにみえますが、個々の消費者は、自らの権利が成立することを第一段階の結果から見極めて、第二段階で特定適格消費者団体に権利実現を委ねることになりますから、十分な余裕を持った判断ができるでしょう。

また、紛争が発生していても、事業者に責任を負わせるべきでない事案も存在することを考えれば、多数の消費者から個別に、又は集団的に訴訟などを提起されることと比較すると、事前に慎重な判断をした特定適格消費者団体が、いわば代表選手として、共通義務確認訴訟を遂行することは、相手方となる事業者にとっても、防御のための費用と労力とを集中でき、自己の責任の有無について裁判所の判断を得る機会が保障されるという意味で、決して不利益ではありません。

3 .特定適格消費者団体に期待される役割

以上の点から、消費者被害回復裁判手続の遂行主体である特定適格消費者団体に期待される役割の重大さが理解いただけると思います。訴えを提起するかどうかはもちろんですし、その後も、第一段階又は第二段階で相手方事業者と和解をするかどうかなど、適切な判断が求められることになるでしょう。


113)

山本和彦「集団的利益の訴訟における保護」民商法雑誌148巻6号606頁(2014年)参照。

114)

差止請求(消費者契約法第12条以下)は、消費者被害の発生や拡大を防ぐことを目的とする点で、関連する制度ではあるが、消費者被害の回復そのものとは区別される。

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