平成25年版消費者白書

コラム12

消費者教育の推進

横浜国立大学
教授 西村 隆男

2008年10月にOECDとUNEP(国連環境計画)による消費者教育合同会議がパリのOECD本部で開催されました。持続可能な消費に加え、デジタル能力の向上をテーマとした議論では、消費者教育を通じた社会的関与の重要性が共通認識となっていました。消費者教育に長く関わってきた者として、消費者の社会的関与、つまり市場における社会参加は消費者教育の究極のゴールと認識してきたことが誤りではなかったと感じた瞬間でした。

従来の消費者教育が、消費者問題の解決へのひとつの処方箋とはいえ、契約被害の未然防止など、もっぱら消費者個人の自己防衛型のスキルを高めることに傾斜していたことは事実です。しかし、欧米の消費者教育では市場における消費者の影響力の行使に、より大きな力点が置かれていました。

さて、2012年に成立した消費者教育推進法では、消費者教育が目指す消費者市民社会を、「消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に及ぼし得るものであることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会」として定義しています。つまり、推進法は消費者の役割として、社会への影響力の行使の必要性を明示しました。

消費者市民教育を進めるにあたっては、以下の3つの視点が消費者に不可欠な要素です。第1には、経済的市民、第2には、政治的市民、第3には、倫理的市民の育成です。

経済的市民の育成とは、市場で広告やトークに振り回されがちな消費者が、公正で健全な市場を形成するべく、市場での主体性を回復するためのレッスンです。いわば市場参加能力と言えるでしょう。政治的市民の育成とは、購入した商品の不具合や欠陥に気づいたら企業に申し出たり、行政のパブコメに意見を提案するなど、社会に対して進んで発言をするためのレッスンです。社会提案能力と言い換えることもできるでしょう。倫理的市民の育成とは、支援を必要とする国や地域の商品を購入するなどさまざまな方法でサポートしたり、地産地消にこだわりを持ったり環境に配慮した消費行動をとるなど、持続可能な社会の実現に積極的に関わるレッスンです。自らの日常の行動を反省する行為も含まれるので、自己革新能力と名付けておきます。こうした能力を消費者の一人一人が意識して行動していくことが求められます。

一方、行政の役割は、消費者教育推進のためのインフラの整備です。まず、第1には各地の消費生活センターを消費者教育推進の拠点として整備することです。消費者教育は身近な地域で進められることが大切です。そのためには、物的、人的資源が集約されるプラットホームが必要です。第2には学校教育の充実を図るための教員研修や、大学の教員養成課程や教職課程での消費者教育の必履修を進めることです。学習指導要領のさらなる改編も求められるでしょう。

また、言うまでもなく、推進に欠かせないヒト、モノ、カネを地方に配分するための財政措置、消費者団体、事業者、NPOなどさまざまなセクターとの連携・協働の促進、さらには消費者市民社会の成員としての国民意識の普及推進なども挙げておきます。

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